日本交渉協会常務理事でありナカノ株式会社代表取締役の窪田氏をゲストにお迎えし、「行軍篇」その1をお届けします。本エピソードでは、敵地においてどのように軍を展開・運用すべきかを説いた孫子第九「行軍篇」を解説します。山・河・沼沢地・平地という4つの地形における配置の原則をはじめ、自然現象や鳥獣の動きから危険を察知する観察術(源義家の「雁行の乱れ」やキューバ危機の事例)、そして敵の言動や断片的な情報から真意や内部統制の乱れを見抜く要諦を紐解きます。


◎窪田恭史氏のご経歴

日本交渉協会 常務理事/燮(やわらぎ)会 幹事

ナカノ株式会社 代表取締役

日本古着リサイクル輸出組合理事長

表情分析、FACS認定コーダー

日本筆跡心理学協会 筆跡アドバイザーマスター

早稲田大学政治経済学部卒アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)でのコンサル業務を経てナカノ株式会社に入社、2024年より現職。「交渉分析」理論の日本への導入にも尽力。


【TODAY’S TOPICS】

◎地形ごとの行軍・布陣の4原則

・山:谷沿いに進み、見晴らしの良い高地に陣を構える(上から攻め下る優位性の確保)

・河:渡河後は速やかに岸から離れる(岸を背負う不利を避ける)。敵の渡河時は半分ほど渡らせて部隊を分断して攻撃し、河岸で迎え撃たない

・沼沢地:長居は厳禁(衛生悪化や軍馬の消耗)。やむを得ず戦う際は草や葦を前にして身を隠し、森林を背にして背後を守る

・平地:見晴らしが良く足場が安定した場所を選び、前方が低く後方が高くなる地形を確保する


◎周囲の現象から「危険の兆候」を読み取る

・自然のサイン:川の水が泡立っているのは上流の大雨・増水の前兆。視界の悪い狭隘地は伏兵や罠の危険(誘い込む際は出口側を押さえる)

・鳥獣の動き:鳥の群れの突然の飛び立ちや獣の逃走から奇襲・伏兵を察知する

 →事例①:後三年の役で源義家が雁の隊列の乱れから伏兵を見抜いた逸話

 →事例②:1962年のキューバ危機において偵察写真のサッカー場からソ連技術者の滞在と核ミサイル配備を見抜いた実例


◎敵の言動・状況の矛盾から「真意」を見抜く

・状況と態度のギャップ:不利な平地への布陣は別の有利な条件を疑う。使者がへりくだりつつ軍備を固めるのは奇襲のサイン、使者の強気な発言の繰り返しは撤退準備の可能性

・断片的な情報からの推測:武器を杖代わりにする(飢えや疲労の極限)、水汲み兵が我先に飲む(深刻な渇き)、敵陣上空に鳥が集まる(撤退の兆候)、鍋釜を壊し幕舎に戻らない(退路を断ち決戦を覚悟)


◎組織の統制状態の観察とリーダーシップ

・統制の乱れ(虚)を突く:軍の異様な騒がしさ、指揮官の怒声・叱責、必要以上の丁寧さ、恩賞や懲罰の急増は組織の疲弊・信頼喪失の兆候

・「虚に見せかけた実」への警戒:使者のへりくだった態度(時間稼ぎ・戦力回復の策略)や、急接近後に直前で静止する敵軍の罠を見極める

・指揮官の戒め:最初は乱暴に扱い後から急に腫れ物に触るような態度は未熟な統率。平時からの信賞必罰と積み重ねこそが組織を一つにまとめる

次回は、これらの観察眼を交渉へ応用し、「断片的な情報から相手の置かれた状況を推測する方法」をお届けします。



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